外用だけではなかなかコントロールできない、中等症以上のアトピー性皮膚炎の患者さんに対して、最近さまざま内服薬や注射薬が使用できるようになり、皮疹やかゆみが良くなるばかりでなく、患者さんの生活の質も向上しています。ここでは当院で使用可能な内服薬、注射薬について使用経験に基づいてご紹介します。
注射薬・内服薬の作用メカニズム
- 私たちの体は常に臓器同志、細胞同士で情報のやり取りを行っています。この情報のやり取りを担っているのが、サイトカイン、ケモカイン、ホルモンといった分子です。これらの分子のバランスが崩れるとさまざまな病気になると考えられ、アトピー性皮膚炎もその一つです。
- アトピー性皮膚炎の発症・重症化に大きく関わっているのが、IL-4、IL-13 (註:IL,インターロイキン)というサイトカインです。また、アトピー性皮膚炎の痒みに関わっているので、IL-31というサイトカインです。
- IL-4、IL-13、IL-31は、細胞表面にあるそれぞれの受容体に結合してスイッチを「オン」にし、細胞内に「情報」を伝えます。これらのサイトカインのシグナルを細胞内に伝えるのがJAK-STAT経路です。
- 近年、IL-4、IL-13 、IL-31が受容体に結合する前にブロックしたり、JAK-STAT経路を抑えることでアトピー性皮膚炎が劇的に改善することがわかり、これらをターゲットにして薬が開発され、大きな成果をあげています。
注射薬
注射薬は、IL-4、IL-13、IL-31が受容体に結合することをブロックすることで効力を発揮します。
デュピクセント | ミチーガ | アドトラーザ | イブグリース | |
一般名 | デュピルマブ | ネモリズマブ | トラロキヌマブ | レブリキズマブ |
ターゲット | IL-4, IL-13 | IL-31 | IL-13 | IL-13 |
半減期 | 5.1日 | 22日 | 21.3日 | |
対象患者 | 6カ月以上 | 6歳以上 | 15歳以上 | 12歳以上 (>体重40kg) |
規格 | 300mg ペン | 60㎎ シリンジ | 150mg シリンジ | 250mg オートインジェクター |
用法・用量 | 初回 600mg 2回目以降 300mg | 1回 60mg | 初回 600mg 2回目以降 300mg | 初回2回目 500mg 3回目以降 250mg |
投与間隔 | 2週間 | 4週間 | 2週間 | 2週間 3回目~4週間も可 |
在宅自己注射 | 可 | 可 | 可 | 不可 |
薬価* | 61,714円/本 | 116,426円/本 | 29,295円/本 | 61,520円/本 |
注射薬についての私見
デュピクセント:注射薬の中では一番早くから使われており、有効性、安全性が高く評価されています。気管支喘息や結節性痒疹にも保険適応がありますので、気管支喘息も合併している方、ブツブツした皮疹(痒疹)主体の方におすすめします。
ミチーガ:他の注射薬と違い、かゆみに関わるIL-31をターゲットにしているところが特徴です。皮疹はそれほどひどくないが、とにかく痒みが強い患者さんにおすすめします。
イブグリーズ:最近使えるようになったお薬ですが、デュピクセントと同等の効果が期待できます。中断後も長期間効果が持続する、というデータもある点が評価できます。
内服薬
ネオーラル | オルミエント | リンヴォック | サイバインコ | |
一般名 | シクロスポリン | バリシチニブ | ウパダシチニブ | |
分類 | 免疫抑制剤 | JAK阻害薬 | JAK阻害薬 | JAK阻害薬 |
対象患者 | 16歳以上 | 2歳以上 | 12歳以上 (>体重30kg) | 12歳以上 |
規格 | 3mg/kg | 2mg, 4mg | 15mg, 30mg | 50mg,100mg, 200mg |
用法・用量 | 1日1~2回 | 4mgを1日1回 状態により2mgに減量 | 15mgを1日1回 状態により30mgに増量 | 100mgを1日1回 状態により50mg、200mgに増減 |
1錠/1カプセル 当たりの薬価* | 10mg 42.2円 25mg 96.3円 50mg 159.2円 | 2mg 2300円 4mg4483.7円 | 15mg 4,325.8円 30mg 6,249円 | 50mg 2199.3円 100mg 4287.4円 200mg 6431.2円 |
導入前後検査** | 血液検査 胸部X線(CT) | 血液検査 胸部X線(CT) | 血液検査 胸部X線(CT) | 血液検査 胸部X線(CT) |
その他 | 12週以内に休薬 |
**定期的な検査によって、B型肝炎ウイルスの再活性化、肝機能障害、間質性肺炎、リンパ球減少、好中球減少、血小板減少などがないか調べます。
内服薬についての私見
ネオーラル:JAK阻害薬登場前は、最も強力な全身治療薬でした。免疫抑制剤に分類されますが、アトピー性皮膚炎に用いる100~150mg/日の投与量では、免疫抑制はほとんど問題にならないと思います。JAK阻害薬より安価ですが、最長12週で一旦休薬しなければならず、休薬中は悪化する可能性があります。
JAK阻害薬:「飲んだその晩には痒みが消えた」、という方もいるくらい、痒みに対する効果は速いと思います。皮疹も早期に改善する方が多く、注射が苦手な方におすすめできます。ただ、注射薬よりこまめに血液検査等が必要になります。
オルミエント:最初に承認されたJAK阻害薬です。最近2歳以上から使用できるようになりました。アトピ性―皮膚炎に円形脱毛症を合併する方がいます。オルミエントは円形脱毛症にも適応がありますので、円形脱毛症も合併されている方におすすめします。
リンヴォック:痒み、皮疹の改善に対する効果がとても速いです。30mgを内服する方は稀で、15mgでコントロールできる方が多いです。
サイバインコ:3種類の錠剤があり、症状に応じて増減できる点が評価できます。
注射薬・内服薬の当院での導入方針
ここでご紹介した注射薬、内服薬は、いずれもアトピー性皮膚炎の皮疹、かゆみの改善に非常に効果が高いお薬です。しかし、高額なお薬なので患者さんに本当に必要かどうかを検討します。
1. 問診
アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症)、気管支喘息、食物アレルギーなどアレルギー性疾患の既往歴をお聞きします。
ご両親、ご兄弟(姉妹)にアレルギー疾患がないかお聞きします。悪化因子(季節、食べ物、汗など)についてお聞きします。
これまでの治療(外用薬、内服薬など)についてお聞きします。
2. 皮疹のチェック
頭、顔からつま先まで皮疹の状態(赤みの程度、盛り上がりの程度、カサカサの度合い、引っ掻き傷の有無、皮疹の範囲など)を診させていただき、スコア化します。場合によってはお写真を撮らせていただきます。ある程度以上のスコアに達していないと注射薬やJAK阻害薬を使うことはできません。
血液検査
LD、IgE、好酸球数、TRAC(小児ではSSCA2)がアトピー性皮膚炎のバイオマーカーと言われ、重症度と相関がみられます。導入前だけでなく導入後も時々検査させていただき、重症度を客観的に評価します。
外用指導
お話を伺うと、外用量、外用の方法が適切でないために皮疹やかゆみがよくならない方がいらっしゃいます。当院では、高額な注射薬、内服薬を使う前にまず外用指導を行います。それでも改善に乏しい方に注射薬、内服薬をご提案します。
医療費について
内服薬、注射薬ともに保険適応ですが、それでも医療費はかなりの高額となります。上の表をみていただければわかるように、ネオーラルを除いて、どの内服薬、注射薬を使用されても1か月あたりの自己負担額に大きな差はありません。自己負担額は年収や加入されている健康保険の種類によって変わってきます。
①高額療養費制度
医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が1か月で上限を超えた場合、その超えた分の金額が支給される制度です。上限額は年齢や所得に応じて定められています。また、以下の条件を満たす方は、負担をさらに減らすことができます。
■世帯合算:おひとり分の窓口負担では上限額を超えない場合でも、同じ世帯で同一の医療保険に加入する家族がいらっしゃる場合は、窓口でそれぞれお支払いいただいた自己負担額を1か月単位で合算して申請する事ができます。その合算額が一定額を超えたときは、超えた分を高額療養費として支給されます。
■多数回該当:過去12か月以内に3回以上上限額に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり、自己負担限度額がさらに低くなります。
②医療費控除
1年間にかかった医療費の総額が10万円を超えた場合に適用される所得控除です。確定申告を行う必要があります。
③付加給付
ご加入されている健康保険組合や共済組合によっては、独自の給付制度を設けている場合があります。一定額を超えた分が付加金として給付されます。
④マル乳・マル子・マル青医療証をお持ちの方
東京都内に住民票のある方は、小学校入学前までの乳幼児を対象にした乳幼児医療費助成制度(マル乳)、小学生、中学生を対象にした義務教育就学児医療費助成制度(マル子)、高校生等(15歳の4月1日から18歳の3月31日)を対象にした高校生等医療費助成制度(マル青)を利用することにより、医療費負担を減らすことができます。ただし、都内でも区市町村によっては、保護者の所得による制限があるなど負担額が異なるので、詳しくはお住いの自治体にお問い合わせ下さい。