花粉症の季節になると、「花粉症に対するステロイド注射を行っていますか?」というお問い合わせをいただくことがあります。「年1回の注射で効く」という宣伝文句で、自費診療として実施している医療機関もあるようですが、当院では行っておりません。
いわゆる「花粉症のステロイド注射」とは?
多くの場合、ケナコルト(一般名:トリアムシノロンアセトニド)というステロイド薬を筋肉注射します。ケナコルトは溶けにくい性質を持つため、体内でゆっくり溶け出し、長期間作用します。強力に炎症を抑えるため、短期間で花粉症症状が軽減することは事実です。しかし、問題はその「長く効く」という性質にあります。
この治療法ではステロイドが全身に作用するため、以下のような副作用が起こる可能性があります。
- 注射部位の萎縮
- 免疫力低下による感染症のリスクの上昇
- 糖尿病・高血圧の悪化
- 骨粗鬆症の進行
- 消化性潰瘍
- 満月様顔貌(顔が丸くなる)
- 月経不順
- 副腎皮質機能低下、など
つまり、ケナコルト注射は「長く効く」という性質のために、一度注射すると、途中で副作用が出ても止めることはできません。
副作用が出ると、数ヶ月〜半年以上影響が続く可能性があります。
当院が行わない理由
花粉症は確かにつらい病気ですが命に関わるものではありません。一時的な症状軽減のために、全身性ステロイドを長期間作用させる治療を行うことは、安全性の観点から適切ではないと考えています。「プラセボを対照としたシーズン前1回筋注投与では、鼻閉に対する効果は高いが、くしゃみや鼻漏(鼻水)に対する効果は強くない」というデータもあり、日本耳鼻咽喉科学会の鼻アレルギー診療ガイドライン(2024年版)でも推奨されていません。
現在は、
- 抗ヒスタミン薬
- 抗ロイコトリエン薬
- 点鼻ステロイド(効果は局所的で、効果も強く、副作用もほとんどありません)
- 舌下免疫療法
- 生物学的製剤(重症例)
など、より安全性が確立された治療法が多数あります。当院では、患者さんの症状に合わせて、上記の治療法を組み合わせて治療しています。
