秋田大学在職中に始めた研究が、このたび国際学術誌 Experimental Dermatology に掲載されました。
論文タイトル: PI3Kγ suppresses cutaneous squamous cell carcinoma formation by modulating the tumor microenvironment rather than by promoting cell proliferation.
途中で似たテーマの研究が発表され、一度は研究を断念しかけましたが、最後まであきらめずに続けてきて本当によかったと思います。現在はクリニック診療が中心のため研究に使える時間は多くありませんが、クリニックのない水曜日の午前中などの時間を使って研究を続けてきました。
本論文はオープンアクセスのため、以下のリンクからどなたでも自由に閲覧することができます。
研究の内容(簡単に説明すると)
今回の研究では、**PI3Kγ(ピー・アイ・スリー・ケイ・ガンマ)**というシグナル伝達に関わる遺伝子に注目しました。この遺伝子を欠損(ノックアウト)したマウスを用いて皮膚がんの発がん実験を行ったところ、次のような結果が得られました。
① PI3Kγを欠損したマウスでは皮膚がんがほとんど発生しない
通常のマウス(野生型)では多くの皮膚がんが発生したのに対し、PI3Kγ欠損マウスでは皮膚がんの発生が著しく抑えられました。
② PI3Kγを阻害しても細胞そのものの増殖は抑えられていない
培養した表皮細胞にPI3Kγの阻害薬を作用させても、細胞の増殖自体は抑制されませんでした。
③ 腫瘍の免疫環境が大きく変化していた
皮膚がん細胞をPI3Kγ欠損マウスに移植すると、腫瘍の中では制御性T細胞(免疫反応を抑える細胞)が減少し、細胞障害性T細胞(がん細胞を攻撃する細胞)が増加していることが分かりました。
この研究から分かったこと
これらの結果から、PI3Kγを阻害すると皮膚がんの発生が抑えられるのは、がん細胞の増殖を直接抑えるためではなく、腫瘍を取り巻く免疫環境(腫瘍微小環境)を、がんを抑制する方向へ変化させるためである、可能性が示されました。
この研究の意義
がんは「細胞の異常な増殖」によって起こるため、これまでの抗がん剤の多くはがん細胞の増殖そのものを抑えることを目的として開発されてきました。しかし今回の研究は、がん細胞そのものではなく、がんを取り巻く免疫環境を変えることで腫瘍の発生や増殖を抑えることができる可能性を示しています。
これは、今後の新しいがん治療の考え方につながる基礎研究といえます。
今後の目標
私自身が研究に使える時間は決して多くありませんが、新しいメカニズムに基づく「塗って治す皮膚がん治療薬」の開発につながる道筋をつけたいと考えています。
