診療Update 8:蕁麻疹の新しい診療ガイドラン

日本皮膚科学会から、8年ぶりの改訂となる「蕁麻疹診療ガイドライン2026(第4版)」が発表されました。今回の改訂では、病名や分類が整理されるとともに、抗ヒスタミン薬で十分な効果が得られない蕁麻疹に対する治療として、生物学的製剤がより明確に位置づけられました。

蕁麻疹の多くは「特発性」です

蕁麻疹は、蚊に刺されたような赤い盛り上がりと強いかゆみが突然現れ、通常は数十分から24時間以内に跡を残さず消える病気です。

蕁麻疹には、食物や薬剤によるアレルギー性蕁麻疹、皮膚への圧迫や摩擦で起こる機械性蕁麻疹、発汗に伴うコリン性蕁麻疹、日光蕁麻疹など、さまざまな病型があります。しかし、医療機関を受診する蕁麻疹の中で最も多いのは、明らかな直接の原因や誘因を特定できない「特発性蕁麻疹」です。

「特発性」とは、何も原因がないという意味ではありません。疲労、ストレス、感染症、自己免疫的な仕組みなど、複数の要因が関係することがありますが、「この食べ物が原因」というように、一つの直接的な原因を特定できないタイプを指します。

発症してから6週間以内のものを「急性特発性蕁麻疹」、6週間を超えて繰り返すものを「慢性特発性蕁麻疹」と呼ぶことになりました。

アレルギー検査をすれば原因が分かるとは限りません

「蕁麻疹の原因を知りたい」と、血液によるアレルギー検査を希望される方は少なくありません。しかし、典型的な特発性蕁麻疹では、原因を探すために多数の項目を網羅的に検査することは推奨されていません。

特異的IgE検査などのアレルギー検査は、「特定の食品を食べた直後に毎回症状が出る」など、問診から即時型アレルギーが疑われる場合に、疑わしい原因に絞って行います。

一方、治療が効きにくい場合、症状が非典型的な場合、発熱や関節痛などを伴う場合には、必要に応じて血清総IgE、甲状腺自己抗体、CRPなどの検査を行うことがあります。大切なのは、むやみに検査項目を増やすことではなく、詳しい問診と診察から必要な検査を選ぶことです。

治療の基本は抗ヒスタミン薬です

蕁麻疹のかゆみや皮膚の盛り上がりは、皮膚にある「マスト細胞」からヒスタミンなどの物質が放出されることによって起こります。そのため、治療の基本は、ヒスタミンの作用を抑える第2世代抗ヒスタミン薬の内服です。

機械性蕁麻疹、コリン性蕁麻疹、日光蕁麻疹などでは、可能な範囲で誘因を避けることも重要ですが、多くの病型で抗ヒスタミン薬が治療の中心となります。

通常量で十分な効果が得られない場合には、眠気などの副作用に注意しながら、別の抗ヒスタミン薬への変更、2倍量までの増量、または2種類の併用を検討します。

抗ヒスタミン薬が効かない場合は生物学的製剤を検討します

今回のガイドライン改訂における大きな変更点は、慢性特発性蕁麻疹に対する薬物治療の第2段階として、抗ヒスタミン薬に加えて、オマリズマブ(ゾレア®)またはデュピルマブ(デュピクセント®)を使用することが明確に示されたことです。

これらは、蕁麻疹の病態に関係する特定の分子を標的とする生物学的製剤です。従来用いられてきたステロイド内服やシクロスポリンよりも前の治療段階に位置づけられました。当院でも、抗ヒスタミン薬だけでは十分な効果が得られない多くの蕁麻疹患者さんに使用し、良好な効果が得られています。

一方、ステロイド内服および免疫調整薬であるシクロスポリン内服は、従来よりも治療上の位置づけが後退しました。ステロイド内服は、慢性蕁麻疹に漫然と継続する薬ではありません。ガイドラインでは急激に悪化した場合に限り、原則として低用量かつ2週間以内の短期間にとどめることが示されています。シクロスポリンは、生物学的製剤でも十分な効果が得られない場合などに、専門的な管理のもとで検討されます。

治療の第一目標は「生活に支障がない状態」です

蕁麻疹は、診察時に皮疹が消えていることも多く、医師が診察室だけで重症度を判断することが難しい病気です。そのため、新しいガイドラインでは、患者さん自身が症状や生活への影響を回答する「蕁麻疹コントロールテスト(UCT)」などを用いて、治療効果を客観的に評価することが推奨されています。

治療の第一の目標は、多少の症状が残っていても「日常生活に支障のない状態」にすることです。当院ではさらに、「治療により症状が現れない状態」(第二目標)、および「無治療で症状が現れない状態(治癒)」(最終目標)を目指して治療を調整します。

蕁麻疹の治療選択肢はさらに広がっています

2026年6月には、マスト細胞内のブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)という情報伝達経路を阻害し、ヒスタミンなどの放出を抑える新しい経口薬、ラプシド(一般名:レミブルチニブ)が、既存治療で効果不十分な特発性の慢性蕁麻疹に対して承認されました。生物学的製剤とは異なり、内服で治療できる新しい選択肢として期待されています。

また、オマリズマブにはバイオシミラーも承認され、2026年5月に薬価収載されました。今後は治療効果だけでなく、投与方法や通院頻度、費用なども考慮しながら、患者さん一人ひとりに適した治療を選択できるようになることが期待されます。

バイオシミラー:先行バイオ医薬品と同等・同質の品質、安全性および有効性が確認された医薬品です。一般に、先行バイオ  医薬品よりも薬価が低く設定されています。

当院では、症状の持続期間や蕁麻疹の病型、日常生活への影響、これまでに使用した薬剤とその効果を確認し、抗ヒスタミン薬の調整から生物学的製剤による治療まで、症状に応じた治療をご提案しています。蕁麻疹が長引いている方、薬を服用しても十分に改善しない方はご相談ください。

最後に、蕁麻疹診療ガイドライン2026(第4版)の全34項目の臨床設問(CQ)の推奨度とエビデンスレベルを一覧表にまとめました。推奨度とエビデンスレベルの定義は以下の通りです。

推奨度: 1 行うことを推奨   2 行うことを提案   3 行わないことを提案  4 行わないことを推奨   5 推奨なし

エビデンスレベル(EL):                                  A 強い                                          B 中程度                                          C 弱い                                          D 非常に弱い

CQ番号臨床設問(CQ)の内容推奨度EL
I. 検査
CQ1 病型診断のためにI型アレルギー検査を行うこと5B
CQ2 急性特発性蕁麻疹に検査を行うこと5C
CQ3 慢性特発性蕁麻疹に検査を行うこと5B
II. 治療1. 小児、妊産婦の治療
CQ4 小児にも成人と同様の治療を行うこと2C
CQ5 妊婦に抗ヒスタミン薬を使用すること2C
CQ6 授乳婦に抗ヒスタミン薬を使用すること2C
2. 急性特発性蕁麻疹の治療
CQ7 抗ヒスタミン薬で効果不十分な例へのステロイド全身投与5C
CQ8 抗ヒスタミン薬で効果不十分な例への抗菌薬使用5C
3. 慢性特発性蕁麻疹の治療
CQ9 抗ヒスタミン薬の増量1B
CQ10 H2受容体拮抗薬の併用2C
CQ11 抗ロイコトリエン薬の併用2B
CQ12 ジアフェニルスルフォン(DDS)の併用5B
CQ13 グリチルリチン製剤の併用2B
CQ14 ノイロトロピンの併用5C
CQ15 トラネキサム酸の併用2B
CQ16 抗不安薬の併用5C~D
CQ17 漢方薬の併用5B
CQ18 皮疹抑制後のステロイド内服継続4C
CQ19 シクロスポリンの使用2A
CQ20 オマリズマブ(抗IgE抗体)の使用1A
CQ21 デュピルマブ(抗IL-4/13受容体抗体)の使用2B
CQ22 上記以外の免疫学的治療(IVIG、血漿交換など)3C
CQ23 症状消失後の一定期間の抗ヒスタミン薬継続2D
4. 外用療法
CQ24 症状出現抑制を目的としたステロイド外用薬の使用4B
5. NSAID誘発蕁麻疹の治療
CQ25 COX阻害作用がない、または小さい薬剤の使用2B
6. 物理性蕁麻疹の治療
CQ26 機械性蕁麻疹への抗ヒスタミン薬の使用1B
CQ27 寒冷蕁麻疹への抗ヒスタミン薬の使用1B
CQ28 寒冷蕁麻疹への耐性誘導5C
CQ29 日光蕁麻疹への抗ヒスタミン薬の使用1B
CQ30 日光蕁麻疹への免疫学的治療5C
7. コリン性蕁麻疹の治療
CQ31 コリン性蕁麻疹への抗ヒスタミン薬の使用1B
CQ32 積極的に汗をかかせること(温浴療法など)2D
8. 血管性浮腫の治療
CQ33 特発性の血管性浮腫への抗ヒスタミン薬の使用1B
CQ34 特発性の血管性浮腫へのトラネキサム酸の使用2B

参考:日本皮膚科学会「蕁麻疹診療ガイドライン2026(第4版)」