日本皮膚科学会から「円形脱毛症診療ガイドライン2024」が発表されました。前回の2017年版以降に、国内外で発表された円形脱毛症に関する新しい知見を加えて作成されました。2017年版との最も大きな違いは、重症の円形脱毛症にたいして、経口JAK阻害薬が新たに保険適応になったことです。
ここでは、今回のガイドラインのエッセンスを紹介します。推奨度とエビデンス(科学的な根拠)レベルは以下のように定義されています。
推奨度の強さ
1:強い推奨 推奨された治療により得られる利益が大きい。
2:弱い推奨 推奨された治療により寄られる利益の大きさや有効性・安全性は不確実である。
3:推奨しない 判断の根拠となる情報の普遍性に乏しい、あるいは本邦の医療体制にそぐわない。
エビデンスレベルの分類
A(高い):結果はほぼ確実である。
B(低い):結果を支持する研究はあるが十分ではない。
C(とても低い):結論を支持する質の高い研究がない。
当クリニックでは、患者さんの重症度を見極めた上で、今回のガイドラインを踏まえ、赤で示した治療法を行っています。
経口JAK阻害薬は、頭部全体の~50%以上に脱毛がみられ、過去6カ月程度毛髪に自然再生が認められない、重症の患者さんに保険適応となった治療法です。バリシチニブ(オルミエント®)とリトレシチニブ(リットフーロ®)の2剤が承認されています。いずれも高額な治療で、治療の開始、継続、中止にあたっては、医師の診察、血液検査、レントゲン検査などに加え、医師と十分に話し合うことが必要になります。
一部のAGAクリニックでは、円形脱毛症に対してミノキシジルの内服薬が処方されています。本邦ではミノキシジル内服薬は未承認であること、副作用の出現が懸念されること、十分なエビデンスがないことから、当クリニックでは処方していません。
治療方法 | 推奨度 | エビデンス |
1. ステロイド局注療法 | 1 | B |
2. 局所免疫療法 | 2 | B |
3. ステロイド外用療法 | 1 | B |
4. ステロイド内服療法 | 2 | B |
5. ステロイドパルス療法 | 2 | B |
6. 経口JAK阻害薬 | 1 | A |
7. 抗ヒスタミン薬内服 | 2 | B |
8. セファランチン内服 | 2 | C |
9. グリチルリチン、グリシン、メチオニン配合薬内服 | 2 | C |
10.カルプロニウム塩化物の外用 | 2 | C |
11. ミノキシジル外用療法 | 2 | C |
12. ミノキシジル内服療法 | 3 | C |
13. (液体窒素による)冷却療法 | 2 | B |
14. 紫外線療法* | 2 | B |
15. 紫外線以外の光線療法 | 3 | B |
16. シクロスポリン内服 | 3 | B |
17. メトトレキサート内服 | 3 | B |
18. 生物学的製剤 | 3 | B |
19. 漢方薬 | 3 | C |
20. 抗うつ薬・抗不安薬内服 | 3 | B |
21. 抑制剤外用療法 | 3 | C |
22. プロスタグランジン製剤外用 | 3 | B |
23. 睡眠療法・心理療法 | 3 | C |
24. PRP(多血小板血漿)療法 | 3 | B |
25. かつらの使用 | 1 | C |
局所免疫療法は、脱毛が広範囲に及ぶ方には有効な治療法ですが、保険適用はなく、揮発性、引火性のある溶媒に溶かした試薬を塗布する必要があります。当クリニックでは、揮発性、引火性のある溶液は、安全上保管できないため、局所免疫療法は行っておりません。適用があると考えられる患者さんは、実績のあるクリニックにご紹介いたします。
ステロイドパルス療法は、毎日ごっそり抜け毛があるような、急速に進行している円形脱毛症の方に適応があります。入院した上で、高用量のステロイドを3日間点滴する必要があるため、入院可能な連携施設にご紹介します。